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海―松原遠く



 おそらく小学校に上がる前、レコードか何かでこの曲を知ったのだと思う。そして小学1年の時、自宅のラジカセで自分の歌をカセットテープに吹き込んだ。その時何気なく口ずさんだのが、文部省唱歌「海」であった。

 “松原遠く…”の歌い出しの「海」は、大正2年の『尋常小学唱歌』に拠る。作詞者作曲者とも不詳。原曲は4分の3拍子、ヘ長調である。

 文語調の歌詞が難しく、小学生が扱っていた学校配布の唱歌・童謡の副読本では漢字による記述がほとんどなく、よりいっそう所々の意味が分からなかった。ただ子供心にも、日本海のような荒海ではない、太平洋に面した日本のどこかの風景だろう、ということは想像できた。歌のメロディはなんとなく南国風とも感じられる。

 明治14年以降、西洋式の音楽を国内に導入すべく、児童向け音楽教育が推進され、明治30年代にもなると、国産のオルガンが普及したこともあって、唱歌集が数多く出版されたという。
 今以てこの「海」という曲が純国産なのか、欧米の民謡の流用なのか判明していないが、結果的にこの曲調と歌詞による相乗効果は、日本人の心を表す唱歌として記憶に印刻され、戦後以降の音楽教育の場でも歌い継がれた。

 「海」。私自身の体験においても、心を表す、いや心を自己形成してきた重大な要素としての唱歌であったと思うし、それは永久に変わりない。日本列島を囲む《ウミ》という存在を、愁いある叙情的な言葉によって表出し、人間の生との共存性と喜怒哀楽を濃密に包み込んでいる。実に不思議な歌だ。

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