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マイクロフォンの話⑩

BETA 58A―音楽的ラフ・スケッチへの夢


SHURE BETA 58A■SHURE BETA 58A
・形式:ダイナミック型
・指向特性:スーパーカーディオイド
・再生周波数帯域:50Hz-16kHz
・出力インピーダンス:150Ω
・感度:-51.5dBV/Pa (2.6mV)
・質量:278g

 2011年の秋。東日本大震災の影響があって、個人的にまったく音楽としての嗅覚を失っていた最中、まだあまり使い込んでいないPro Toolsに、即席のリズム・ループをぶち込み、即席のメロディと歌詞を用意して、1日に6曲以上をレコーディングした、ことがあった。
 ラフなレコーディングで所々、ヴォーカル・サウンドが歪んでいてもお構いなし、テイクの差し替えもほとんど無し、それでいてプラグインがほとんど整っていなかったから、Pro Toolsのなんとも言えない無味乾燥なサウンドとなってしまい、これほど酷い作品はない、というものが出来てしまった。
 チューブ・マイクロフォンのしっとり感、レトロを匂わすプレート・リバーブというリッチな組み合わせは、逆にいっそうラフ・レコーディングのうま味を損ねていて、自らそれらの曲群に絶句してしまう。だが、もしこの時、「SHURE BETA 58A」を持ち合わせていたならば、もしかするとそれほど酷い作品にならなかったのではないかと、後々になってあれこれ想像したりした。

 SM 58と比較して、「BETA 58A」はスーパー・カーディオイドだから少々扱いづらい。Pro Tools上でテストしてみると、PAの“かぶらない”ありがたさが認知できず、やや不本意なのだが、やはりPro Tools自体がとてもクリアなため、こうしたマイクロフォンの正しい特性が、どこか物足りない不完全なものに感じるというか勘違いして評価しがちだ。

 しかし、録ったソースにEQをかけ、コンプをかけると、実にそれが音楽的な心地良いサウンドとなる。SM 58よりも幾分3k~5kHzあたりに広がりが感じられ、無口なカントリー・ミュージック系のシンガーに受けそうな気がする。いずれにしても、EQ+コンプ+エコーを当然組み合わせるといった全体の仕組みを理解しない限り、このマイクロフォンの純粋な特性をノンエフェクトで見抜くのはきわめて難しい。

 私はこのマイクロフォンのキャラクターを、人間が丹精込めて栽培した西洋ランの美しさではなく、雑草に近い花の野性的な美としてみた。こういうマイクロフォンで敢えて粗野なレコーディングを行うべきだ、と。

 Pro Toolsのサウンドの構築についても、より吟味して考えねばならぬ。デジタル・レコーディングでありながら、今や非常にアナログ的な香りを感じるのは気のせいであろうか。ラフなサウンドをありのまま再現し、整ったサウンドは整ったなりにその通り出す、という点において一昔前のデジタル臭さを感じない。これはおそらく、自分自身の低域の処理の仕方、中域のつぶし方にも由来する部分であろう。だいぶ嗅覚が戻ってきた。2年前の即席作品の無味乾燥のような、デジタル臭いサウンドを作ることが、皮肉にも難しくなってきている。

〈了〉
(2013.11.23)