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コラム/
幻に終わったProject B

  
 2013年の5月。夜風に吹かれながら、静寂とした暗闇の中をたどっていくと、自己批判ショーが稽古場として利用している公共施設があった。宮澤賢治の「注文の多い料理店」の“山奥”――ではないが、どこかそんな山奥に来たような錯覚があった。この感覚は私にとって、やはり懐かしげなあの「夜風」と「暗闇」のせいに相違なく、およそ17年ぶりに《里帰り》した束の間の一景ではあった。
 
 Project B。幻に終わったProject B――。
 同月、私の音楽制作とかかわりのある、この一つの企画案を正式に自己批判ショーへ、すなわち代表の山本さんへオファーし、5月15日を迎えた。この日が、打ち合わせのために私が17年ぶりの《里帰り》を果たした日であり、Project B始動の日だった。稽古場には、前年の第23回公演で主演した、大久保宏章さんが居た。
 Project Bは、その大久保さんをホイットニー・ヒューストンに仕立て上げ、映画『ザ・ボディガード』のパロディを喜劇にして映像化する、という企画であり、言わば映像と音楽による自己批判ショーとのコラボ作品にするつもりであった。打ち合わせの場で制作の一定の目処が立ち、私は急ピッチで音楽制作を開始し、撮影会場の確保と衣装の準備に取り掛かった。

 
 同年6月5日。衣装合わせ。大久保さんに白いドレスを試着してもらう。予想通りの姿態。作品のタイトルはボディ・ガードならぬ「THE BODY GIRL」。ずんぐりとサイドにエクスパンジョンした大久保さんの体型が際立つ。ケビン・コスナー役を演じてもらう紺野秀行さんとのツー・ショット。私がケータイカメラで撮影した、大久保さんを写した最後のショット…。
 
 数日後、撮影日が“8月24日”と決まる。シナリオの第一稿を書き進める。シナリオと演出のための制作ノートに、様々なメモが書き加えられていく。私の頭の中で、彼ら二人の珍妙な演技が次々と浮かんでくる。次第にコンティニュイティの数が増えていき、どこを削るかで頭を悩ませていった。

 
 それから1ヵ月、山本代表から突然のメッセージを受信する。大久保さんの入院。やがてそれは、重い病であることが分かった。
 撮影及びProject Bの中止。大久保さん不在の自己批判ショーとなる。そして大久保さんの闘病生活。無力感に襲われる日々。
 その後も自己批判ショーは、普段通りの活動が続く。私はそんな彼らの活動を、ただ見守るしかなかった。あの白いドレスを着て笑顔を振りまいていた大久保さんが、目に焼き付いて離れない。
 
 ――2014年4月25日。大久保さんは帰らぬ人となった。彼は永遠に、“自己批判ショーの人”となった。喜劇役者だから悲しい言葉はいらない。つらいけれども、何かを振り払わなければならない。

 
 幻に終わったProject B。さりとて、〈終わってなんかいませんよ!〉という彼の甲高い声が天から届く。ん?大久保さん、終わったじゃないですか、Project Bは。私はあの時からシナリオを書き上げていませんよ。
 いーやいや…。彼はあのエクスパンジョンした腹で、また無理矢理、白いドレスを着始めたのである。“ケビン・コスナー”紺野さんとの強烈なラヴ・シーンを完遂させるために。

〈了〉
(2014.06.05)

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