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コラム/
SoundBowという抽象



イノセントなSoundBow



《影は光よりも大きな力をもっている、というのはそれは物体から光を禁じこれを完全に奪うけれど、光は物体つまり個体から影をすっかり追い払うということは絶対にできない》

(岩波文庫『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』より引用)



 作曲もしくはそのプログラミングの作業の過程で、自己の感性や思考の手による演奏を、ある意味信じられなくなり、絶望し、他の力=神の力を得てこれを克服したいと願う瞬間、というのが時々起こる。近年私はそれに近いかたちで、improvisationを促すiOSアプリに出くわし扶けを求めたことがあり、いわゆるそういう神の力によって作品を仕上げた――経験がある。
 時にそれは悪戯心によっても促される。improvisationの演奏というのは、天使と悪魔が両方宿っているものなのだ。
 ある日偶然、Agoston NagyのiOSアプリ「SoundBow」に出くわした。私は何かそれにミステリアスなそそられるものを感じ、インストールして実際に音を出してみた。音としての印象はとてもひんやりとしていて近寄りがたく、しかしもう少し使い込んでみる必要があると思われた。

 「SoundBow」は仮想の弓の上を指でドローイングして音を奏でるアプリである。ドローイングしたところは自動的にリピートして奏でる。音色は3種あって、叩いた音、グロッケンシュピールのような音、弦の音を選ぶことができる。またマイクロフォンによる音声をサンプリングして音色とすることも可能。
 11本ある仮想弓は音像的にステレオの定位に比例し、左側が低い、右側が高い音程で配列されている。この仮想弓は位置や長さを変えることができる。指を使ったドローイングはそのタイミングの長さによって節となり、速くなぞれば速い演奏となり、遅くなぞれば遅い演奏となる。

 さて、この「SoundBow」を使用してimprovisationを試みようとした時、ドローイングすればするほど、音が重なり合い、それが心地良い和声としての機能を持たず(厳密には分散和音によく似た旋律)、手早いトリガーの役割しか果たせていないことに、苛立ちを感じた。
 主たる音楽的な自己の感性や思考がまったく役に立たないどころか、むしろそれを拒絶され、声高に鳴り響く無情なる器械と化して、ドローイングしたものを嘲笑うかのように、これを音楽的に制御することができない。仮想弓がまるで伝統的な民族楽器のレプリカのような雰囲気を醸し出していながら、その内実はまるで違う。鷹揚で慇懃な“HAL9000”コンピューターのように、音楽を拒絶するのである。

 音楽を拒絶した先に真の音楽があるとするならば、まさに「SoundBow」は神である。私の感性や思考はこれに追いついていない。しかし、ドローイングの線形を単純な直線や曲線にすれば、音楽的な領域でのリズムのパターンやメロディが派生できる。人間にも理解可能な音楽の領域として。
 禅(Zen)の音楽=禅楽というのを想像してみた。現れた音を耳で聴くのではなく、心で聴くということ。瞑想によってとらえることのできる音楽。そして心(心の中心)は主から衆のもとへ。自然との調和を図り和解し、生命としての幸福(生まれてきたことへの感謝)を願う。そう、「SoundBow」は禅楽なのだ。もはやそうとしか考えられない。

 いつしか気づかぬうちにこのアプリは消えてしまうかも知れないから、私はここにその記録をとどめることにした。

〈了〉
(2016.08.04)

SoundBowを使ったインプロビゼーション・サンプル曲

▼曲名「SoundBow Sample」 (演奏者:Utaro) 2分55秒

■レコーディング・フォーマット:32bit浮動小数点/96kHz。
■SoundBowアプリはiPhone 6Sから出力し、アナログ・ミキサーを介してデジタルI/Oに入力。コンプで掛け録りしつつ、Pro Tools 12でレコーディング。
■音圧を上げるため、WavesプラグインCLA-76 BLACKYをインサートした。それ以外のプラグインは一切使用していない。
■ファイルは16bit/44.1kHzにダウンコンバートしつつ、オフライン・バウンスでMP3ファイルを生成。

soundbow-sample.mp3

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