Utaro's Electro Pop Music Site Dodidn*

テキストサイズ 小 |中 |大 |

G Baptism

TwitterTwitterFacebook PageFacebook Page


HOME > EQUIPMENTS > HEGEMONY

コラム/
ミキシングにおけるヘゲモニーの諸問題



心地良いサウンドの造形美はいかにしてつくられるべきか



 私が20代の頃、ミキシングの独自の手法に関するメモを紙に書き残していて、つい最近それを思い出したので読み返してみた。大して独自というほどのことでもなく、今では一般的に指摘されているような内容であったが、ミキシングというのは音楽作品の最も重要な、橋頭堡を築き上げる行程であり、ここで失敗すれば作品は記憶に残らないと言っていいだろう。ある市販のミキシングに関する教則本では、親切にも実際的な曲のパーツをダウンロードでき、それを教材としてミキシングを学ぶことができるらしいのだが、その最たるお手本用の2ミックス・ファイルが、あまりよろしくない、ひどいミックスだ、と酷評されていたりして、ミキシングという行程の感覚的な部分の難しさを思った。
 そうした酷評と共に多く見受けられたのは、教則本として分かりづらい、数値がこまかく書いてあって難しかった、読んでいる途中で挫折した、などといった内容の感想である。やはりミキシングそのものが、初心者にはなかなかディテールとして伝わらない、何をしていいのか、何がどうなればいいのか、雲を掴むような話に思えるのだろう。

 私が20代の頃に書き残していたメモというのは、もっとざっくばらんな簡単な事柄であった。これをこまかく突き詰めていくと、結局は教則本と同じ内容を示すことになるのだろうけれど、自分としてはこれを、ミキシングにおける一つの指針として参考にするつもりだったのだ。ともかく、そのメモの中身をここに記してみる。

・シンプルな音源でヴォーカルを引き立てる。
・要所要所のポイントを設定し、ヴォーカルとの兼ね合いでアレンジを構成する。
・ヴォーカルパートを邪魔するパートを削除する(ブラス、リード系、グロッケンなど音色が似ているもののメロディ・ラインは避ける)。
・サビ・リピートはアレンジを少しずつ変化させる(スネア、パーカッション)。
・ディストーションを掛けたギター系の音とアゴゴやカウベルを混ぜ、ブレイク・ビーツを作る。
・スネアの変化は2~3段階に分ける(リム・ショットを含む)。
・ピアノ、エレピの音色の選択に気をつける。
・奇をてらった構成やテーマを避ける。テーマ性に欠けた題材もダメ。
・メロディ・ラインの検討(時間をかけて)。
・すべてのパートのエディットをチェックする。
・バックグラウンド・ヴォーカルの付加の必要性をよく吟味する。
・ヴォーカル・マイクの選択とリバーブ等のエフェクトのクオリティを重視する。


 メモをよく見渡してみると、ほとんど打ち込みでのアレンジ(編曲)に関わる内容になっている。実はそうなのだ。ミキシングを前提にしてアレンジを考えるのが常識的な発想であったし、私の頭の中では今でもそうなっている。ミキシングはアレンジであり、アレンジはミキシングなのである。
 例えば、ヴォーカルと同じユニゾンのメロディをブラスだとかリード系などで鳴らしたら、センターのヴォーカルと重奏となってしまい、いったいどこへ配置したらいいのか。いやいや、うるさくて邪魔なだけだから、そんなパートは最初からいらないのだ。ピアノかエレピかの選択では、同じ旋律を任すにしても曲の雰囲気ががらりと変わってしまう。慎重に選ばなければならないだろう。

1996年頃の私の機材 当時私が使っていたMTRは、カセットテープによる4トラック・マルチのTASCAM MIDI STUDIO 644だった。 4トラックしかないのだから、さほど難しいミキシングにはならない。ただし、今では当たり前のオートメーション・ミキシングなんてものは存在しない。指先の感覚によってそれぞれのフェーダーをリアルタイムでさばいていくミキシング。
 エフェクター類は、SONY MU-R201のリバーブ、YAMAHA MP5とZOOM STUDIO 1204によるマルチ・エフェクト。YAMAHA REX50は録音時のヴォーカルにかます仮のエコーとして使い、BOSS CL-50はコンプ。KENWOOD DX-7はポータブルなDATで、2ミックスのマスター・レコーダーとして使用していた(16bit/48kHz)。
 そして打ち込みで使う音源は、一体型シーケンサーであるYAMAHA QY-70で、このQY-70内でオケのミキシングを構築しておき、それをMIDI STUDIO 644の2トラックに録音していた。ヴォーカルは残りの2トラックを使った。

 あのメモは、その当時の現状において、最低でも可能なミキシングの手法を示していたにすぎなかった。むしろミキシングとしてできないことの方が多かったはずだ。ある意味、理想のミキシングを思い描いていたメモとも言える。
 しかし今日の私にとって、あのメモはとても重要な役割を果たしている。基本的なミキシングの考え方、すなわちアレンジそのものを左右するチェック項目として、心地良いサウンドの造形美を紐解く、秘密の鍵となっているのだ。

 ミキシングにおけるヘゲモニーはいったい何か――。2ミックスを作るのは決して容易なことではない。物を「つくる」ということ自体、そもそも容易なことではないということを、肝に銘じておくべきかも知れない。

〈了〉
(2017.03.22)

制作・レコーディングに関することはDodidn* Blog!

[Dodidn* blog]主な関連ログ