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レコードってなんだろう?

開けるのが怖い…


 エジソン・ラボラトリーのパテントに関する表記がある。そしてパッケージには、“EDISON GOLD MOULDED RECORDS”の文字。
その左側には、エジソンの大きな肖像画。さらにパッケージの上下の黄土色の帯部分を見ると、細かすぎて誰しもが見落としがちになるが、そこにも“Thomas A. Edison”の氏名が一周するまで連刻されている。
 パテント、パテント、パテント。つまり、この形態のレコードはエジソンが発明したものですよ、私の会社に権利がありますよ、ということをこれでもかと告知しているのである。
 1904年。日本においては日露戦争が開戦した年。向こうアメリカでは、ワックス・シリンダーに音を録音し再生する技術の高らかなファンファーレが鳴り響いていたのだ。


 私が幼児だった頃、箱の中に宝物を入れてしまっておき、そのことをすっかり忘れていて、後で大変なことになった、という経験がある。
 その時その瞬間の私にとっての宝物は、アサリの貝殻であった。味噌汁で食したアサリの貝殻一人分を、箱の中に大事にしまったのだ。後日、悪臭が放つ。入れておいたのを思いだし、自分で箱を開けてみた。開けて何を見たかは、ここには書かない。


 何か、蓋をしたものを開ける勇気というのは、そのアサリ事件の記憶から奮い立たせるものであることを、私自身がよく知っている。
 エジソンの凛々しい顔は良いとして、この紙製の管箱の蓋を開けるのも、しばし熟慮した。何が入っているか。それはワックス・シリンダーに決まっている。であるにしても、私としては、日露戦争開戦の頃の蓋を開ける勇気が、なかなか湧いてこない。いや、そんなことは言ってられない。幼児ではなく大の大人である。少しくらい悪臭が放たれても、あの時のアサリほどではないだろう。そんなことを思いながら、勇気を振り絞り、蓋を開けた。

 中は真っ黒である。ワックスも煤けてしまっている。幸いなことに、悪臭はなかった。しかしどうやら、カビが生えているようである。触りたくはない。無論、これを取りだしたところで、再生できる蓄音機がないのだから、取り出す必要もない。もしあの『大人の科学マガジン』ふろくのエジ蓄が、これを再生できるのならそれこそ大ごとであったが、パテントというものは、こういう時に抜け目がない、ということなのだ(いや、もっと技術的な問題かも知れないが)。

終わりを告げたエジソンの時代



 蓋には、マスキングテープで何やら文字が書かれている。
“AMB23060
HERE THERE AND EVERYWHERE
NAT'L. MIL. BAND”
 とある。「HERE THERE AND EVERYWHERE」というと、マッカートニーの曲をすぐに思い出してしまうが、はて、NAT'L. MIL. BANDとは何か。そんなバンドがマッカートニーをカヴァーしてワックス・シリンダーでレコーディングしたというのか。そんなバンドがあるのなら、とんでもない奇天烈なバンドに違いない。そもそも時代が違いすぎるではないか。


 ともかく、後々、エジソンの時代は終わった。ベルリナーの円盤式レコードに推移し、材料がシェラックなどに変わったとき、それまでになかったセンスが、ジャケットの概念だろう。皮肉なことに、音とは直接関係のないビジュアル面の確立によって、音楽がより音楽らしくなり、いっそうレコードがレコードらしくなった。パテント、パテント、パテントと、年中エジソンの顔を拝まなければならなかった時代が去り、ジャケットを見つめながら、耳をプレイヤーに傾ける優雅な嗜好がそこに誕生した。

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