※以下は、拙著旧ブログのテクスト再録([Kotto Blog]2011年10月18日付「仮寓の人」より)。
鍋の季節。
大手スーパーの食品売り場に行くと、鍋汁のレトルトパック商品が棚いっぱいに陳列されていて、種類も豊富。毎日鍋料理でも飽きない…かもしれません。ちなみに私がいちばん好きな鍋はモツ鍋でしょうか。
私自身、鍋の季節になると思い出すのが、もう21年ほど前の、演劇仲間によって19歳で劇団結成した時の、ファースト・ミーティングにおけるファースト・パーティ。
内輪の大名目としては、“結成を記念しての鍋を囲む会”。
後にこの時結成した劇団は空中分解するのですが、それはともかく、四方八方から掻き集められた連中が、発起人兼首謀者兼座長の男(私と同い年)の住む公営団地に初めて集合した記念すべき日であったことは間違いなく、次第にこの男の化けの皮が剥がれ、実は劇団結成よりも単に鍋を囲みたかっただけだったのではないか、とちらほら噂されるほど、この時のこの男の行動力は凄まじかった、と記憶しています。
劇団結成に関しては裏方や事務的なことを含めていろいろ打ち合わせをしなければならない、その段取りはけっこう複雑であり、19歳としては頭が痛いはずなのに、この男の行動は、まず何より、鍋の食材の買い出しに全力を注いだ、わけです。
その夜、私も買い出しに連れて行かされたわけですが、スーパーの売り場で座長の男は素っ頓狂な声を上げます。「こんなものがここに売られているなんて!」と。
私はこの時の「記憶」を長らく勘違いしていました。彼は売り場で“クワイ”(慈姑)を発見したのだと。
しかしそれは言葉の記憶違いで、彼が発見したのは“クエ”でした。
クエというのは貴重な魚のようで、彼の発見によって「今日の鍋は“クエ鍋”だ」となったわけですが、ハタ科の海水魚というのはいろいろあるようで、それが正真正銘のクエであったかは定かではありません。いずれにしても彼は一人で有頂天になり、思惑通りそのファーストパーティは“クエ鍋を囲む会”となったのです。…無論、宴会は朝まで続きました。
コメント