チェリャビンスクの町を襲った隕石

怖いイラストに怯えながら読んだ『宇宙と星のふしぎ』

 昭和50年代、小学生の頃に通い詰めた書店の児童書のコーナーには、あるいくつかのシリーズ本で埋め尽くされていた。学研の図鑑シリーズや小学館の学習百科図鑑シリーズ。他にも小学館コロタン文庫シリーズも数え切れないほど書棚に並べられていて、立ち読みをするだけで楽しかった。その頃から書店をはしごする癖がついていたが、やはり品揃えの豊富なその書店がいちばん好きであったし、腹が空けば隣の食堂でラーメンか今川焼を食うことができた。
 その書店の児童書で品揃えがよかったもう一つのシリーズがある。小学館の“入門百科シリーズ”である。
 野球、水泳、つりのジャンルから始まり、バレーボールやサッカー、あるいはプロレス、手品、なぞなぞ、昆虫、将棋、囲碁、妖怪、ウルトラ怪獣などなど、子供らの趣味や興味をそそるようなタイトルが、優に100を超えて発刊されていた。実際に書店で並べられていたのは、仮にそのうちの半分だったとしても、やはり児童書の中では圧倒的な物量で誇っていたと思う。当時の私は、書店へ行くと真っ先にこのシリーズに新しいタイトルが入荷していないかどうか、目を凝らして探したものだ。
【小学館入門百科シリーズ】
 さて、それを買ったのは小学何年生だったのか、よく憶えていないが、『天文学入門 宇宙と星のふしぎ』(草下英明著)というのがあった。おそらく私が天文学系の本を最初に買ったのがこれだったのだろう。
 巻頭のカラーページで無人探査機ボイジャーの木星の写真や土星の写真にまず目を奪われ、この本の白眉を感じた。そして第1章の宇宙と星座に関する知識のページで、いくつかの恐ろしいイラストに釘付けになった。「地球が爆発するようなことはありませんか?」や「地球に、ほかの星がぶつかることはありませんか?」といった、ある意味子供らを惹き付ける世紀末的な詰問。これらのページのイラストが非常にソフィスティケートされたホラー系のイラストであったため、とても興味が惹き付けられたと同時に、この本全体がなんとなく“怖い本”のような印象になってしまい、決してこの本を友人には薦めなかったのである。
【小惑星激突の怖いイラスト】
 私がこの本の中で最も震えたのが、「小わく星が地球に激突!!」のページであった。
《スウェーデンのアルフベン博士は、「トロという小わく星が、200年後には地球としょう突するだろう。」と、予告している》
《東京に落ちたら、ものすごい被害が出るのはかくじつだ。水素爆弾が10発落ちたぐらいの威力で、直径50キロはけし飛んで穴があくだろう》
 と、愚直なまでの説明。何と言ってもこのページのイラストは、子供らを恐怖のどん底に突き落とすくらいのインパクトがあった。巨大な小惑星(しかも何故か怖い顔)が落ちてくる…それを怯える女性の真顔――。涙が出るくらい僕らは怖いところ=地球に住んでしまっているのだ、と思った。
チェリャビンスクを襲った隕石
【2月16日付朝日新聞朝刊一面】
 去る2月15日、ニュースを見て震撼した。ロシア・ウラル地方のチェリャビンスク州に直径17メートル、重さ1万トンの隕石が飛来し、上空で爆発。爆発の衝撃波で多数の建物や人的被害を受けたという。さらには爆発の際、太陽のような閃光と熱を感じたという地元の人々の驚くべき証言。衝撃波で吹き飛ばされた窓ガラスの映像がまた衝撃的で、TNTに換算すると500キロトンという核爆発並みのエネルギーであったというのだ。
 隕石落下の話は、科学雑誌ではよく取り上げられる食傷気味なものであったが、建物被害や人的被害の大きさ故に、地元の災害ではない日本の新聞朝刊のフロントページに掲載されるという前代未聞のトップニュースとなったのは、過去に遡っても初めてではなかったか。それだけに自然災害報道としての衝撃も大きい。
 かくして私は、チェリャビンスクの隕石ニュースを見ているうちに、例のあの本の、あのイラストを思い出した。
「小わく星が地球に激突!!」
 あれが現実に、映画や何かの作り事ではなく本当に起きてしまった。まったく信じられない。何と言っても今回の隕石飛来のニュースは、子供らのみならず全世界の大人達を震え上がらせたようだが、古い児童書とは言え馬鹿にできないものである。

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