※以下は、拙著旧ホームページのテクスト再録([ウェブ茶房Utaro]2011年5月24日付「クラブマガジン廃刊の考」より)。
2011年5月、株式会社ソニー・ミュージックダイレクトから、新着のクラブマガジンと同封されて「『CDクラブマガジン』廃刊と新サービス開始のお知らせ」が届いた。「CDクラブ」とは、クラシックやジャズファンがCDアルバムと親しむための、会員制通信販売事業で、毎月「クラブマガジン」が発行され、クラシックやジャズ、歌謡曲、イージーリスニングや落語などのアルバム批評を味わい、それらのアルバムを買い求めることができるのが、クラブとしての愉しみというか旨みであった。その「クラブマガジン」の発行がなくなり、大方、ネットショップサービスへの移行となるというのだ。
私が初めてこのクラブの会員になったのは、1997年頃で、そのきっかけは、それまであまり深く親しんでこなかったジャンル――《ジャズ》を知ろうと思ったからである。
最初に届いたCDが『スタンダード・ジャズ・ボーカル』で、いきなり1曲目のキャロル・スローン「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」に圧倒され、ジャズというジャンルの素晴らしさに魅了された。その他、シャーリー・ホーンの「SOMEBODY LOVES ME」やスザンナ・マッコークルの「I CAN’T GIVE YOU ANYTHING BUT LOVE」もお気に入りの曲となり、その後クラブで紹介されるジャズやクラシックのアルバムに次々とのめり込んでいった。
そもそもこうした音楽と文学的表現(=アルバム批評)の連携もしくは相乗効果というものは、ある音楽的文化の側面を担ったものであったし、ネット通販全盛を迎えた現在においても、その位置づけは変わるものではない。マニアックな音楽ファンであればあるほど、音楽と文学とを結びつけ、互いに寄り添い、芳醇なる芸術的色香を愉しむよすがとして、それぞれを利用した。だからこそこうしたCDクラブが、ある一定の会員の質を保って継続できたとも言える。「原材料の高騰」「地球環境保護という時代の要請からペーパーレス化」「ウェブ化の志向」というのが廃刊の理由であるが、やはりマニアにとってこの中での《紙》の文学を失うというのは、芸術的色香の半分が欠落したことになり、残念無念という他はないのである。
しかし私は別の意味で危惧することがある。主体が音楽そのものの愛着を失うこと。深い愛着を持って音楽を提供できなくなること。または音楽的文化から疎遠になること。
これらは「人」の問題である。「音楽と人」という先史以来の豊かな文化が、何か破壊された、愛着が持てなくなった、という事態がこの現代に生じていないか。《紙》を切り捨てるということが、果たしてより良い選択となったかどうか、私は疑わしいと言わざるを得ない。
そしてもう一つ考え得ること。それは、いよいよ現代において、これまで企業が主体となって商業ベースで展開されたファンサービスといったものが、主体自身がそれへの愛着を失ったことで劣化し始め、もはや真の一般愛好家との連携が保てなくなってきたのではないか、という懸念。我々愛好家はいよいよ主体であった企業に振り回されずに済む、という面もあるが、要は静かに黙々と、独自の自主的なサークル活動、もしくはサロンによって音楽を愉しむのがいちばん、だということを、改めて認識した次第である。
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