※以下は、拙著旧ブログのテクスト再録([Kotto Blog]2011年9月21日付「巧妙なるリバーサル」より)。
「Pro Tools 9」導入に伴う“自宅スタジオリニューアル”を数ヶ月計画で行っていた([Dodidn*]実験コーナー参照)関係で、25年来の良き教科書である「サウンド&レコーディングマガジン」(リットーミュージック)の最新号並びに90年代の所蔵バックナンバーをこの間に徹底して読み返していた経緯があって、特に1985年頃の音楽シーンに個人的興味がそそられています。
山下達郎氏のアルバム『POCKET MUSIC』は私の中で(思い入れとしては)別格なのですが、坂本龍一氏が手掛けた映画サントラ『子猫物語』の軽快なリズム、そして「科学万博つくば’85」住友館の立体映像のサントラ「空に会おうよ」のB面となっているプロローグ曲なども、いかにもその時代らしいsyntheticなコンピュータ・ミュージックで心地良い。単調で平板すぎるこれらのサウンドに対し、かつては冷ややかであったものの、逆に今では価値観が変化して巧みに様々なジャンルのリズムパートに取り入れられていることはご承知の通りです。ともかく今、私の密やかなマイブームなのです。
ところで思い起こせば、つくば博・住友館の70mm立体映像『大地の詩』は、まったく個人的な記憶として、所有する『とびだせ!EXPO’85 SCiENCE LAND』(リイド社)という書籍の中で一際印象深いものとなっていました。“GAEA”というフレーズが附された女の子(エリカ)と犬(ボゾ)の微笑ましいコダックフィルム系天然色写真。
実はこの立体映像『大地の詩』の一部音声が聴けるウェブサイトを発見し、つくば博のある種独特な臨場感に時空を超えて浸ることができました。実際に現場で何時間もかけてパビリオンを回った当時の記憶よりも、こうした書籍やその他のメディアを閲覧している方が、遙かに濃厚で面白く、衝撃的でもあります。
そう言えば以前、もう9年ほど前になりますが、つくば博ファンサイトのオーナーの方と、書簡を交わす機会があって、私自身が所有していた僅かなつくば博関連のグッズを、その方にほとんど譲った、ということがありました。
【『つくば科学万博クロニクル』表紙】 |
【画像処理して反転した表紙】 |
実はその方を含めグッズマニア数名が資料提供されているつくば博関連の出版本があります。洋泉社MOOKの『つくば科学万博クロニクル』がそれです。
ところがこの書籍は致命的な欠陥があります。装幀及び書中の掲載写真が裏焼き状態となっており、その博覧会会場の空撮写真が“反転”してしまっているのです(左上の画像が実際の製本のミス装幀で、右上は私自らが正しい製版を模して画像処理したもの)。
もしかすると装幀写真の裏焼きにまったく気づかれない読者も多いのでは、と思うほど、ある意味奇跡的に目立たない失敗製版なのですが、当然、その写真を見るとパビリオンの配置が東西にわたって反転しているため、正式な資料としてのパビリオンマップの機能を果たしていません。無論、遠景の筑波山も地形が真逆。
この書籍は非常にトリビアな情報も詰まっていて読んでいて面白いのに、肝心なつくば博のスケールとなるはずの全体像が編集スタッフにまったく理解されていなかったということになり、それがとても残念でなりません。
まさかこのトリビアなミスが、実は昭和の科学偏重や安全神話を皮肉った“目立たない”巧妙なる意図的な印刷であった、わけではないでしょう。
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