おしゃれな花入門

【ミニレディー百科『おしゃれな花入門』】
 春は百花繚乱の季節である。そんな季節に読みたくなる女の子の本が、かつての“入門百科シリーズ”の中にあった。
 小学館のこのシリーズでは、女の子専門の“ミニレディー百科”という枠が用意されていた。いま私が手にしている『おしゃれな花入門』もその一つなのだが、他には、『すてきなおかし作り』だとか『少女まんが入門』『バレエ入門』『あなたも詩人』『スポーツおしゃれファッション入門』『エチケット入門』などがあり、女の子の嗜好や趣味に合わせた枠であったことが窺える。
 本題の『おしゃれな花入門』(昭和52年初版)は、サブタイトルにあるように“フラワーデザインから花うらない”までを特集した、言わば花飾りのための本で、古風な言い方をすれば、乙女心をくすぐる内容になっている。
【時代を感じさせる女の子達】
 カラーページを見てみると、「マーガレットとヤグルマソウのボケー」「茶色のバラのコーサージ」「布で作った花のコーサージ」「ウォーターペンダント」「ヒマワリの種で作ったモザイクブローチ」「ドライフラワーのスプーンペンダント」などといった具合に、女の子がちょっとしたおしゃれをするための簡単な花飾りを覚えることができ、人へのプレゼントとして、あるいは何かの記念日に飾り立てるとか、そういった花の使い方がある程度学べるようだ。ちなみにこの本の中の、花のデザインや制作を手掛けたのは、マミ川崎さんである。
【作例「ウォーターペンダント」】
 圧倒的な部数を誇っていた小学館の“入門百科シリーズ”については、私自身、小学生の頃に書店で立ち読みをし、気に入ったものは買い求め、全体的に最も好きな児童本であったことは他の稿で触れた。ただ当時、こうした“ミニレディー百科”のように女子専科の本は、たとえ思いがけず興味が湧いたとしても、書店でそれを立ち読みすることは、男子としてかなりの羞恥心を伴うため、そういった本に触れることさえできないものだった。確かに男子にとって、乙女心をくすぐるこれらの本を、買ってまで読みたいとはおそらく誰も思わなかったであろうが、心の片隅に、ちょっとだけ中を見たい、読んでみたい、という妙な好奇心は少なからず誰にもあったのではないか。あれから数十年を経て、今私はそれを実践していることに、不可思議な感動を覚える。
 『おしゃれな花入門』では、ボケー、ボケーと、やたら“ボケー”という言葉が出てくる。フラワーアレンジメントを知らない我々素人は一体何のことかと思うが、「Bouquet」すなわち花束、ブーケのことである。仏語なので発音的には“ボケー”が正しい。
 本の後半にある「しあわせ花ことば花うらない」の章では、月ごとの花言葉と花占いが掲載されている。私の誕生月である6月を見てみた。ラッキーな花は“スイートピー”。
《初対面の人とでも親しくお話しできる人です。相手をひきつける魅力があり、たいくつさせません。あなたがいるだけで、明るいおしゃべりに花がさくことでしょう。そんなあなたには、スイートピーがぴったり。あなたのつくえの上にかざってください。また、雨がふったりやんだりのはっきりしないこの季節に生まれたあなたには、ふたつの面があります。明るく社交的な面、神経質で移り気な面。あちこちで、調子よく話をするため、八方美人にとられ、誤解され、そんをすることがあるかも…。そんなとき、バラの花もようのネグリジェはあなたを楽しい夢の国へ、つれていってくれるでしょう》
(『おしゃれな花入門』より引用)
 うーん、まったく当たっていないとは否定できない内容。要するにただ調子のいい、やんちゃ坊主なのだ。バラの花もようのネグリジェ? ああこれは“ミニレディー百科”だった。そんなことを忘れてすっかり読み耽ってしまった。

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