『洋酒天国』とステレオの話

【『洋酒天国』第40号】
 好きな酒は日本酒とウイスキー。ウイスキーなら“JACK DANIEL’S”のブラック。ほとんどオン・ザ・ロックである。酒の肴は魚でも肉でも野菜でも何でもいいが、カマンベールのチーズか瓶詰めのオリーブがあれば尚良い。“千葉産”の落花生には最近縁がない。
 『洋酒天国』第40号(昭和34年10月)の巻頭では、当時国税庁の醸造試験所長であった山田正一氏の「ウィスキーの話」でいきなり始まる。その起源や歴史を読んでみると、なるほどと思う。
 この稿では、連続式蒸留機すなわちパテント・スチルのことが若干触れられているが、ウイスキーは蒸留と熟成以外に、ブレンディングが非常に重要だ。例えば“JACK DANIEL’S”は、蒸留したウイスキーをカエデの木炭で濾過するチャコール・メローイング製法である。スコッチ・ウイスキーの方は、大麦麦芽を乾燥させるために泥炭を燃して燻す。ここで独特の煙臭が付く。このようにウイスキーは穀類の種類、製法やブレンディング、熟成の仕方の違いによって、独特な香味が付けられ、千差万別である。
 この第40号はウイスキー以外の酒についても、特にワインについて言及しており、大変参考になった。最近、私はワインはあまり飲まなくなった。が、考えさせられた。その他、バーでの「口説き名セリフ集」だとか、洋酒豆知識として「酒と箴言」も面白く、文学的雑学的な表現がいつも巧妙である。
【家具調ステレオの上でくつろぐ】
 そんな第40号で、見開き2ページを使ったカラーのヌード写真には度肝を抜かれた。昭和30年代のシルクスクリーン印刷ながら、肌の陰陽がなめらかで美しい。よく見ればそれは、裸の女性が寝そべってもまだ余裕のある大きな幅の、木目が鮮やかなセパレート型ステレオではないか。
 別のページの「お酒と歌」という稿に、その注釈があった。面白いので以下、これを引用しておく。

《ビクターから、ちょっとかわったステレオが発売されましたのでご紹介します。32頁のカラー写真にもつかいましたが、デラックス・完全ステレオ電蓄STL-2000型といいます。グラマーの藤尾竜子さんが乗っかってもビクともしないところからみて、家具としても堅牢なことがわかります。大きさもこれでご想像ください。特徴は、ステレオ演奏はもちろんラジオのAM-AM、AM-FMの立体放送が聞けること。嬉しいのは高級チーク合板をつかった洋酒キャビネットがついていることです。お値段も頃あいで25万円。ボーナスを5年分前借すれば買えます》
【「お酒と歌」のコーナー】
 ラジオの“立体放送”というのも今どき、注釈が必要になってくると思うが、その話は割愛するとして、当時で25万円とは、高級もいいところだ。電蓄も高ければ家具自体も高いということで、この値段なのだろうが、この手の量産体制を考えると、台数的に無理はできなかったのではないかと思われる。
 それにしても、銀座や赤坂のバーで粋な酒の飲み方をするサラリーマンあたりでは、エイヤ!と気合いを入れてこれを買い付けてしまうのであろうか。ステレオの中に洋酒キャビネットを組み込むなんていうのは、ちょっとしたアイデアである。私はこの高級ステレオでカラヤンを聴きたい。
 最後にプチ注釈。
 冒頭で“JACK DANIEL’S”を紹介してしまったが、洋酒天国的には、“トリス”をお薦めする。トリスのハイボールは頗る美味い…。

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