UNICORNのペケペケ伝説

【UNICORNのアルバム『PANIC ATTACK』。左がEBIさんで、右が奥田民生さん】
 今回は短めに。
 昨年の初夏、約2年間ほっぽらかしていた自主製作の映画『アヒルの狂想曲』の編集を突然再開し、その間、ツイッターをやめるべくアカウントを削除。無風で真夏のギラギラした熱量に耐え凌いでいたかと思えば、秋に再びツイッターを復活。作品を完成させるまでのあいだ、それからその後のウェブ活動構想の、「乾いた家」にいたる一連のメンタリティー(の昂揚)を支えてくれていたのは、実をいうと、UNICORNの「ペケペケ」の曲だったりする。この半年間、どれほど「ペケペケ」を聴きまくっていたことか――。
【お洒落すぎず、俗的な魅力のあるUNICORNのメンバー】

「ペケペケ」伝説?

 UNICORNの「ペケペケ」には、不思議な昂揚感の魔力がある――と私は信じて已まない。
 ところでUNICORN(ユニコーン)とは、奥田民生(ヴォーカル&ギター)、EBIこと堀内一史(ベース&ヴォーカル)、川西幸一(ドラム&ヴォーカル)、Tessyこと手島いさむ(ギター&ヴォーカル)、ABEDONこと阿部義晴(キーボード&ギター&ヴォーカル)の5人のメンバーによるロックバンドである。
 彼らのメジャーデビュー以降の音楽活動は、80年代後半から90年代初めの、私の中学高校時代にぴったりとリンクする。1993年にバンドは解散しているが、個々の活動期を経て、2009年に再結成している。ちなみに「ペケペケ」(1988年7月発売のアルバム『PANIC ATTACK』収録)の時は、ABEDONさんはまだサポートメンバーであった。
 つい先日、高校3年の時(1990年)に付けていた日記を断捨離したのだが、ベースギターを友人の友人より安価で譲ってもらった云々が書いてあって、あの頃のロックバンド熱の影響をもろに受けていたのを思い出す。
 私個人は、音楽的趣味としてブラック・コンテンポラリーに傾倒していたし、R&Bとか、ロックといえばマッカートニーあたりを聴いていたが、少なくともUNICORNの曲は、自分ではほとんど聴いていなかった。ただ、ラジオではUNICORNはよく流れていたし、友達の持っているSONYのウォークマンのカセットテープに、UNICORNの曲が録音されていたりするというのは、ごく有り体にあったと思う。友達のウォークマンをちょっとばかり借りて聴く――というのも、授業の合間の平凡な過ごし方であった(次の授業が数学だったりすると、余計に音楽を聴いて気持ちをごまかしたくなる)。ともかく、意識せずとも彼らの曲は、何かしらどこかで、聴いていたわけだ。
【「ペケペケ」のプロモーションビデオでは、奥田さんが水芸を披露?】
 「ペケペケ」は、愛くるしい甘い声のEBIさんが歌い出し、このまま終わりまでEBIさんが歌い通していてくれたら、おそらくブリティッシュな感じがするのになあと、期待感がMAXになる。がしかし、そうは問屋が卸さない。
 ダミ声の(失礼)奥田さんが割って入ってきて、雰囲気をぶち壊す(失礼)。高校生の頃でいうと、可愛い女の子といい感じで会話している最中に、どこからかやってくる――雰囲気をぶち壊しに会話に割って入ってくる――嫌味な心境の男子って、いたでしょう。あれです。
 「ペケペケ」の曲の展開さの妙味はまさにそれで、ぶち壊してなおかつ自分の自慢話をし始める男子の、いわば典型的な、嫉妬心とシャイな気持ちがよく表れてるのだけれど、歌詞はそんなふうにはなってなくて、ちょっとモテ系の男子が寄って来る女の子を迷惑がって愚痴をこぼすのだけれど、あんたあたいがいなかったらなにもできないじゃないの、あんたはあたいのテディーベアだから、死ぬまでいっしょにいてあげるわよ、ペケペケ男――という感じの名曲なのだ。民生さんが女の子の側の歌詞を歌うので、ストーリーとしては確かにそうなのだけれど、EBIさんのいい雰囲気の調子をぶち壊しにやってくる男子――という側面は、音楽的展開の中でメタファーとしてあると、私は思っている。
§
 30年前の私の高校時代の、いわばクラスメート同士のガチャガチャとした関係性を多分に含んだ、そっくりそのままフリーズドライされてる空気感が、「ペケペケ」を聴くことによって都度氷解し、目の前に現れる心地良さがたまらない。
 私はその空気を存分に吸い込むことによって、コロナ禍の憂鬱さを吹っ飛ばし、一つの仕事を成し遂げたと思っている。そしてメンタリティーが劇的に変わったことにより、私の周囲を形成していた創作のためのコミュニティーもまた、いい意味で全く様変わりしたのである。
 この半年間の個人的な音楽的影響の寸劇を、私は勝手に「ペケペケ伝説」と呼ぶことにしている。

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