地球空洞説はほんとうか?

 子どもの頃にストーンヘンジ(Stonehenge)の魅力に取り憑かれていた話は、今年の初めに紹介した(「ストーンヘンジに魅了されていた頃」)。今回はさらに弩級のミステリー――「地球空洞説」(Hollow Earth)を紹介したい。
 かつてアメリカで、地球の中身は中空(がらんどう)だと唱えた研究家がいた。驚くべき学説である。しかもその地球内部には、高度な文明社会があるという。小学館入門百科シリーズ34『世界ミステリーゾーン』(和巻耿介著/昭和49年初版)の「地球は空洞か?」で私は、これを読んで口あんぐり、頭が空っぽになってしまったのだった。
《科学の発達した現代にも、まだとけないナゾとふしぎが、こんなにあるのだ!!》

 「地球は空洞か?」では、6ページにわたって「地球空洞説」が詳細に論述されている。これらを要約してここにまとめてみたい。

北極と南極で重大な発見?

 1906年、アメリカ人のウイリアム・リード(William Reed)がこの説を最初に唱えた。北極探検からの報告により、以下のような内容を発表。

 地球は中空(がらんどう)である。長いあいだ求め続けられてきた両極とはまぼろしである。北と南の極限には開口部がある。内部は広大な大陸、大洋、山河がある。この“新世界”に植物、動物が生きていることは明白であり、おそらく、地球表面に住んでいる人間が知らない種族の人間が住んでいるだろう。

和巻耿介著『世界ミステリーゾーン』より引用

 1956年、極地探検家のリチャード・E・バード少将(Richard Evelyn Byrd)の北極及び南極探検によって、「地球空洞論」は証明されたと研究家たちは主張する。バード少将は北極点を超えて2,700キロ、南極点を超えて3,700キロと極地の奥に入って空洞につながる氷や雪のないくぼみに行き着いた。こうした大発見をしていながら、国際上の重要機密になっているという主張。
 バード少将の極地探検は、さらに地球空洞論者の主張の証明材料とされた。1969年のレイモンド・バーナード(Raymond W. Bernard)氏の主張はこうだ。
 バード少将は北極点を横断して南へ飛行したのではなく、極点を超えて2,700キロも飛び続け、氷が見えなくなり、湖や樹木のある山や大地が現れて、マンモスに似た怪獣がいるのを発見した。燃料が無くなりバード少将は引き返したが、無線によってこれらの発見は基地に報告されていた。彼は北極の開口部から地球の空洞の内部へ入り込んでいた――。

 南極においても似たような発見がなされる。
 アメリカのデビッド・バンガー少佐が南極大陸を探検し、極点付近でさまざまな色をした湖を発見。そのうちの一つの湖の水温は、海水温度よりも高かった。これが「バンガーのオアシス」である。南極大陸の氷の厚さは2,000メートルに及ぶといわれ、地下の火山熱では480平方キロメートルもあるオアシスの温度を高めることができない。したがって、どこかの地球の開口部からの温度の影響を受けていると考える。

アトランティス人が征服した地球内部の世界

 あるノルウェー系アメリカ人の体験。
 この人は、北極圏を航海し、極点を超えて未知の国へ入ったという。そこは暑いところで、大きな山があった。その先には大きな谷があり、地球の内側に通じていた。海はそこから川となり、内部は日光がふりそそぎ、動植物もいた。草木や果物、そして人間もずっと大きく、巨人たちの科学による発明能力は地球人よりも優れていた。彼らは1万年以上も前の大洪水により、住んでいた大陸が沈み、そうしたことから地球の内側に新世界を建設した、「アトランティス人の子孫」と考えられる。その地中人は身長3メートル60センチ以上あり、寿命は400~800年で、ある種の放射線によってお互いの考えていることがわかり、大気中の電磁気による動力源を利用し、空飛ぶ円盤などを動かす。

 地球が空洞であることの科学的な理由は、重さにある。
 地球の表面積は5億1010万平方キロメートル。重さは6兆トンの100万倍。もし中身がぎっしり詰まっている球体であれば、こんなに軽いわけがない。
 原始地球は火とドロドロに溶けた鉱物のかたまりであった。自転を続けるうちに遠心力がはたらき、重い物質は外へ、地球の周りに放り出され、これらが岩石や鉱物による地殻(ちかく)となった。この間、地球の内部は両極に穴の空いた空洞となったのだ。
 両極には遠心力がさほど強くはたらかず、赤道の部分で遠心力が強くはたらき、地球は胴がふくれるような形となった。両極にできたくぼみと穴(開口部)は直径2,240キロメートルとされる。ドロドロに溶けた火の一部と白熱光を発する物質の一部は地球の中心部に残り、これが空洞世界の太陽となった。内部の太陽は小さいが、動植物や人間を育てるだけの光を放つ。

21世紀に「地球空洞説」はよみがえるか?

 いかがだったろうか。
 6ページにわたる「地球は空洞か?」の論述は、以下のようにまとめられている。

  • 地球は球体ではなく、りんごに似た形で、その南北の両極にくぼみがあり、そこから内部へ入っていける。
  • 地球の内側の新世界探検の方が、宇宙探検よりもずっと大事である。
  • 内側の新世界の陸地面積は地球上よりも広く、最初に探検隊を送った国は世界最大の国になる。
  • 内側の新世界では、地上の人間よりも高度な文明社会があり、空飛ぶ円盤もここから飛んできている可能性が高い。
  • 核戦争が起こり、地上が放射能で汚染されたとき、生き残った人類の理想的な避難場所は、地球の内部空洞であり、ここに入れば人類は滅亡することなく生き続けられる。

 この「地球空洞説」が、単に『世界ミステリーゾーン』の著者の和巻耿介氏個人の、でっち上げたフィクションだとか絵空事というのではなく、かつて実際に、「地球空洞論」(=「地球空洞説」)を唱えた研究家や物理学者がいたというところがミソで、まことに興味深い話なのである。
 20世紀以前の天文学者や数学者が測地学的にこうした空洞論を唱えたことに関しては、別段それを不思議とは思わないが、大きく時代が進み、前世紀1969年に先述のレイモンド・バーナード氏が『空洞地球―史上最大の地埋学的発見』(“The Hollow Earth – The Greatest Geographic Discovery in History”)という本を出版している点は、首を傾げざるを得ない。いったい彼は何者で、どんな本なのか。この『空洞地球―史上最大の地埋学的発見』の日本語訳(訳者は小泉源太郎)の文庫本『地球空洞説』(ボーダーランド文庫/角川春樹事務所)が97年に出ているという。私はこれをぜひ読んでみたいと思った。

 しかも調べると、75年にあの寺山修司氏も、『地球空洞説』(新書館)なる本に幻想劇「地球空洞説」を発表しているではないか。どうも“少年探偵団”に絡むストーリーらしいので、こちらも面白そうといえば面白そうだが、あくまで舞台劇である以上、フィクションであるこちら(?!)は、とりあえず一旦、脇に置いておくことにする。
 にわかに私の中で、「地球空洞説」なるものが、想像の領域を満たし始めてきた。酒の酩酊が必要かもしれない。いや――何度もいうが、面白そうである。できうるなら、そこへ行ってみたい気がする。アトランティス人の子孫の世界へ。どこかそのへんの田中さんとか、中山さんの家の下水溝から、地下へ潜る秘密の入口はないだろうか?
 ともかくそんなことを考えて、いずれこの話の続きをしてみたい。ではまた。

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