『モリ』ちくのう錠の謎の女性

※以下は、拙著旧ホームページのテクスト再録([ウェブ茶房Utaro]2004年2月20日付「『モリ』ちくのう錠の謎の女性」より)。
 
 私はよく通信販売(以後、通販に略)を利用する。気が付けば、そのほぼすべてがインターネットに頼った注文である。昔は、通販を利用するとなれば、ハガキか電話による注文しかなかった。
 小学生の時分、少年雑誌の裏表紙に掲載されていた、玩具通販の広告は好きだった。だから毎号よく目を通していた。覚えている商品を少し列記してみる。
●紫色をしたボール状のマグネットを掌で転がし、血行を良くする類の健康器具「ミラクルミー」。
●歯を白くする歯磨き粉「セッチマ」。
●缶詰に入った「金のなる木」。
●好きなイラストを拡大縮小自由に贋作できるアーム状の筆記用具「コピア」。
●小型スパイカメラ+現像器具一式。
等々…。
 
 それらは、おもちゃ屋さんにあるような玩具ではなく、いかがわしいジョーク玩具とでも言うべき物だった。
 私がその広告を見て買ったのは、貯金箱である。
 ブリキのゼンマイ仕立てで、棺桶からドラキュラの手が伸び、小銭を棺桶に落とすというもの。注文のハガキを出して、1週間経っても商品が来ず、空っぽの郵便ポストを見るたびに七転八倒した挙げ句、数週間経ってようやく届いたと思ったその貯金箱は、ブリキ製だったために、一部が押しつぶれて破損していた。通販という流通システムそのものが、どうにも「いかがわしかった」時代の話である。そういうこともあって、私の心の中に、通販に対するある種の偏見がこびりついていたのも事実だ。
 
 同じ小学生の時分、痔の薬で有名な、「ヒサヤ大黒堂」の広告を見て、家族に内緒で無料サンプルの請求をしたことがあった。
 すぐさま、小包が届いた。
 包装紙のどこにも「ぢ」などと書いていない。あっぱれだと思った。中を開けると、幾十にも折り重なった小冊子と、サンプルの錠剤と、チューブ薬が封入してあった。もちろん、痔の兆候などないので、サンプルは開封しなかったのだが、数日後、ヒサヤ大黒堂から経過報告用アンケートなる書類が届いた。
 これは困ったと思った。
 仕方なく、イボ痔か切れ痔か適当に自己診断して、順調に回復している旨の文章を書いて送った。その後、何度も同様の書類が届いたが、まさか商品を買うわけにはいかない。〈完全に治りました〉と嘘を書いてそれっきりにした。ただ単に、無料サンプルが欲しかっただけの軽はずみな行為が、とんだ苦労を背負い込んだ失敗例である。
 
§
 
 話がだいぶ、横道に逸れている。本題は、「『モリ』ちくのう錠」なのである。
 子供の頃から雑誌の広告欄などで随分目撃してきた、大杉製薬の小広告――ちなみに大杉製薬は、明治38年(1905年)創業の老舗――。昭和生まれの世代なら、一度くらいどこかで見たことがあるのではないだろうか。
 
【昔の雑誌から、大杉製薬「『モリ』ちくのう錠」の広告】
 
〈蓄のう症にのんで効く 和漢薬3回分無代進呈!〉
 
 数年前、この小広告記事を、とある小冊子から偶然発見したので、これぞとばかりにスクラップにしておいた。それが上の写真。
 この金髪の女性の写真は、昔とまったく変わらず、子供の時分に見たのもこの女性。もう三十年以上経過しているのに、女性は若々しいままで、それが逆に禍々しい感じがしないでもない。顔と顔が密着した独特のイラストもまた、昔のままだ(最新版の広告では、金髪女性の写真が添付されていないらしいという。未確認なので何とも言えない)。
 文章も面白い。

〈「イキ」がしにくいとか…〉

〈「ゼヒ」お試しください。〉
 
 ところどころ、カタカナに置き換えられており、この文体も特徴的である。「鼻汁」「無代」という表現は、単純に古い感じがして、方言的な地方色が出ているのかもしれない。
 インターネット検索に頼ると、「『モリ』ちくのう錠」の広告ファン(?)的な情報は、2、3点探すことができた。しかし、あの写真の女性の正体については、まったく謎。客観的に広告を見れば、ちくのう症とあの女性とはなんの因果もなさそうだ。しかし、私としては、あの謎の金髪女性が頭から離れない。
 何故に外人なのか、何故にあの顔写真なのか。
 謎は時代を越えて、さらに迷宮へと深まっていくような気がするのである。
 

コメント

タイトルとURLをコピーしました