マッカートニーという新しい伝統

【ポール・マッカートニー『NEW』】
 先週、硬派で知られる雑誌『AERA』が来日前のマッカートニー氏に独占取材したと知り、その号を買って読んだ。ポール・マッカートニー氏が新作アルバムを引っ提げて、待望のジャパンツアーを行う。私にとってこれらは驚きと興奮の連続であった。
《新作に込めた妻と過去への想い》
《ジョンが甦ってきた気分》
(『AERA』13.10.28 No.45 朝日新聞出版より引用)
 マッカートニー氏の取材記事の見出しは、そうなっていた。硬派な『AERA』の領分を発揮してか否か、とても大物アーティストの記事とは思えないほど地味な2ページであり、私はそれを『AERA』らしいとも思った。音楽雑誌でもしこの扱いならば、あまりにも地味すぎて責任者は腹切りものじゃないかと思うほど。
 しかし、記事の中身は別である。現在のマッカートニー氏の、新作への思いと、新たな音楽制作のスタンス。考えてみれば、今度のアルバム『NEW』のジャケットも、過去のマッカートニーらしからぬクールなイメージになっている。白いキャンバスに気儘にクレヨン画を描いて楽しむような、かつてのウイングス時代のスタンスとは違い、どこか夜のネオンを想像させる、少しダークな世界に片足を突っ込んだ、異質な空間を思わせる。
 実際、アルバムを聴いてみると、確かにそうであった。エグゼクティヴ・プロデューサーはジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンだが、4人のプロデューサーのうちの一人、特にマーク・ロンソンが好むサウンドが、アルバム全体に大きく影響していた。
【雑誌『AERA』での独占取材記事】
 6曲目の「New」は、まさにマーク・ロンソン好みの、そしてあのザ・ビートルズを彷彿とさせた、いかにもポールらしい曲である。意図してビートルズを真似たというのではなく、ポール自身の、その内側にある音楽的趣向がギターとなって、ヴォーカルとなって(それ以外のパフォーマンスも多種多様だが)、すべてさらけ出された作りとなっている。
 アルバムのいくつかの曲において、ハープシコードやメロトロンが使用されている云々がビートルズを想起させる楽器として取り沙汰されているが、ポールという人は常に向上心を持って、あるいは好奇心を掻き立てて音の出る様々なアプローチを試みてきた。マニアックなヴィンテージ・シンセ、テープレコーダーによるループ、そして自身の身体を使ったClapなども含めて。今回、iPadアプリがそれに加わっているのも見逃せない。
 こうして私は、彼の日本公演を前に、耳を熱くしながら、ビートルズやウイングスの曲をスピーカーに鳴らしまくっているのである。まるで子供のように。

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