オホーツクに消ゆ〈一〉

 1984年にPC-6000シリーズとPC-8800シリーズでこのゲームソフトが発売された時、私はまだ小学6年生であった。
 とある電機店で見かけた『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』というタイトルとそのパッケージのシリアスな格調に、まず惹かれた。

《社会派推理アドベンチャー巨編 オホーツクの海に残る終戦直後の影! ニポポ人形が涙するとき またひとつ、死体が浮かんだ……》

《オホーツクに消ゆ 北海道連鎖殺人 ある朝、東京湾に男の水死体が浮かび上がった。 身元不明、推定年齢40歳前後。そして、事件は北海道へと進む。 釧路、網走、知床、紋別……。 道東を中心に第2、第3の殺人が連鎖していった。 摩周湖で微笑んだ謎の女性は? 紋別沖に沈んだ船とは? 北海道の大自然を舞台に、壮大なスケールで繰り拡げられる 超大作ミステリーロマン!》
 〈カセットテープ2本組というのだから、これは相当手強いゲームだぞ。でも北海道に行った気分になれる…面白そうだ〉と思った私は、3,800円という大金をはたいて、その場の勢いでこのゲームを買った。そしてこれがあの、『ポートピア連続殺人事件』から第2作目となる堀井雄二原作のアドベンチャーゲームであることを知った(後年『軽井沢誘拐案内』が発売され、これらを堀井ミステリー三部作と称した)。
 事件は、東京湾で水死体が上がったとの連絡により、部下の黒木五郎を引き連れ、ボス=プレイヤーが晴海埠頭に向かったところから始まる。言うまでもなく、このゲームの目的は、自分が刑事となって目の前に起きた事件の真犯人(容疑者)を逮捕し、解決することである。
 当時のゲームは、すべてひらがな表記だった。“はるみふとう”というのがいったい何なのか、小学生だった私は、その言葉をよく知らなかった。辞書や地図を開いて意味を調べながらのスタートとなり、それがかえって〈これは完全に大人のゲームだ〉という感覚に酔いしれることができた。しかもこの最初の事件の手がかりによって、子供にとっては未知なる世界=キャバレーを捜査するという展開になり、もうそれだけで舞い上がってしまったものだ。
 そうして『オホーツクに消ゆ』のいわゆる東京編といわれるプロローグのみを、私は何度も繰り返してプレイした。自分がボスとなって殺人事件を捜査するという醍醐味をも凌駕したのは、東京からさらなる北海道へと擬似的な旅をすることができる点にあった。旅をして北海道を回れるというワクワクした気分が、実はこのゲームをプレイする真骨頂であったのだ。
 『オホーツクに消ゆ』のパッケージの中には、「北海道観光マップ」という付録シートがあった。これがとても味わい深かった。事件は道東を中心に展開していくのだが、マップは北海道全域を示していて、事件とはまったく関係のない、カニが有名な長万部であるとか、サラブレッドの産地の日高だとか、原生花園のあるサロベツだとかも記されており、それぞれの地名と位置関係を把握することができた。これが北海道擬似旅行の大きな役割を果たしてくれた。
 ところが、実際に私がこのゲームをやり始めた時、まだ『ポートピア連続殺人事件』をクリア(解決)していなかった。『オホーツクに消ゆ』があまりに面白いのでこちらに専念し、謎が解けていない『ポートピア』の方は棚上げにしていたのだ。こうしてこの間、堀井雄二の二つの作品を抱え、場合によっては授業中にも事件の突破口を考える始末で、そういう時の放課後は一目散に家に帰り、他に目もくれずPC-6001のスイッチを入れたものである。

「オホーツクに消ゆ〈二〉」に続く。

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