【黄金に輝くパタパタ電波時計】 |
学研『大人の科学マガジン』はたびたび購入して電子工作を楽しんでいる。趣旨としては実用的なものを拵えるのではなく、ほとんど工作と実験のためのものが多いが、かつて“○年の科学”雑誌を購読していた理系好き世代には、たまらない《玩具》なのである。
話を少し脱線させる――。学研とは何ら関係がないことを最初に断っておく。
私が小学生だった頃、何度か見かけた光景がある。
放課後の正門前(ぎりぎり学校外の敷地)で、とある業者おじさんが、“学習教材”の販売目的で露天商もどきの商売をおっ始めることがあった。雰囲気としては、バナナの叩き売りのようでもあり、それなりに面白そうな雰囲気であったので、子供らがわんさかと群がってくる。業者側も児童の放課後の時間をぴたり狙って商売を始める――。
要は、その場で小学生が興味を惹くような、いくつかの立体的な学習教材を披露しながら、成績が良くなるための豪勢な、ウン万単位のテキスト集を売ろう、ということなのである。業者は集まってきた子供ら一人一人に、セット教材のパンフレットを丁寧に配る。それから一言、“おまじない”の文句を付け加える。
「いいですか、皆さん。このパンフレットに申込用紙が挟まっていますから、これからおうちに帰って、ここにあなたの名前と住所をお母さんに書いてもらって、大至急、またここに戻ってきてください。そしてここに黄色いポストを設置しておきますから、申込用紙をそのポストに入れてください。いいですか、皆さん。すぐに帰ってお母さんに書いてもらってくださいね。そしてここのポストに入れてくださいね」
こうした露天商もどきの口上を、正門の前で堂々と、しかも学校の敷地の外で行うから、学校の教員関係者にはまったく気づかれない。業者はこのやりとりの直後、一目散に跡形もなく去って行くのだが、黄色いポストだけは、正門に近い植木の枝にこっそり括り付けておいて、後々ポストの中身を取りに来るという仕掛けである。
子供らはもう興奮した状態で帰ってゆき、早くあの教材が欲しいと、パンフレットを親に見せ懇願する。
果たして、どれほどこうした教材が売れたのかは知らないが、業者は学校の目の前で販売行為を行うから、子供らも親もなんとなく信用してしまうのが盲点であり、人によっては学校の学習教材かと思って購入してしまったかも知れない。無論、業者はそれがねらいである。
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さて先日、「パタパタ電波時計」を工作した。長らく買ったのを忘れていて放置していたのだが、急に思い出して工作した。
「パタパタ電波時計」はデジタルを模したレトロ時計でありながら、標準電波を受信して正確な時刻を表示させる正真正銘の電波時計である。デザインもなかなか味がある。この時計の唯一欠点は、音がうるさいことだ。夜中に時刻合わせをされると、タイプライターを打っているかのようなパタパタ音でドキッとし、驚いて眼が覚めてしまうかも知れない。
それはともかく、私は電子キットの工作自体が好きで、学生の頃はよくこういうものを買ってきてハンダ付けをしたりした。これを実用的に使おうとか、そういう目的はほとんどないにせよ、やはり『大人の科学マガジン』はどんなキットでも作るのが楽しい。
考えてみると結局、立体的な付録に弱い世代なのかも知れない。オモチャと教材の線引きが曖昧化され、「遊んで学べる」と言われればすぐに飛びついてしまう世代。
あの頃――やはり学校の目の前で、カラフルな色を塗った「ヒヨコ」を露天販売していた業者がいた。が、そういうものには飛びつかない。子供ながら生き物を飼うことに少しばかり躊躇してしまう。家庭の事情も考慮してしまう。いくら何でも、これから家に帰って親に「赤いヒヨコ買って!」はないだろうと。もう一昔前の世代とは、やはりそこが少し違う。幾分クールである。ただし…。
ただし、その色付きの「ヒヨコ」が、これは学習教材だから遊びながらいろいろな実験ができますよと言われたら、飛びついてしまったであろう。一体どんな実験? ということは考えずに、ただ“教材”という言葉のシャープな響きによろめいて、親を説得させてしまうだけの購買意欲は、業者以上に芽生えてきそうな気がする。
これはもう、悲しき“教材フェチ”の性としか言いようがない。
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