路上でハイ&ロー?

【テレビ画面がモチーフの「ハイ&ロー」ゲーム】
《2人~4人で遊びます。
テレビでおなじみの人生ゲーム ハイ&ロー
サラリーマンの人生は苦難の道のり。同時にスタートをきっても、社長になるのは1人だけ。
はたまた平社員のままでも、お金をがっぽり貯めこむ奴もいる……。君はどんな人生を歩むのだろうか……?》
 1980年にタカラ社から発売されたボードゲーム「人生ゲーム ハイ&ローゲーム」が懐かしい。説明書の冒頭には、上記のような文が書かれてあった。
【やたら付属品が多い】
 調べれば、『人生ゲーム ハイ&ロー』というTBS系列の視聴者参加型バラエティー番組が放送されたのは、1979年10月から82年の9月までで、司会者は愛川欽也さん。その後1985年まで、「ハイ&ロー」と題された番組が、司会者を変えながら続いたらしい。ただしそれぞれ放送枠は別である。
 このボードゲーム「人生ゲーム ハイ&ローゲーム」は、その最初の番組『人生ゲームハイ&ロー』の人気を受けてマーチャンダイジングされたものに違いなく、私がこれで遊んだことのある小学2年の記憶と時期がぴたり一致する。
 ただ、当時私はこれを所有してはいなかった。テレビ番組自体もさほど見ていない。盤を持っていたのは同級生の友人であった。放課後、その友人がこの盤を箱毎、自転車に担いで持参してきて、私の家で遊んだのである。しかもそれは、家の中ではなく、家の外。つまり家の前の路上のアスファルトに、この盤を広げて遊んだのだ。
 盤だけならともかく、このゲームはやたら付属品が多い。
 ゲーム盤本体、出場者ゴマ、ボーナスゲームゴマ、チェックゴマ、キンキンマーク(まさにこれこそ愛川欽也氏ゆかり)、ドル札束、買い物カード、品物カード、不運カード、昇格基準点カード、昇格点数カード、トランプ、ルーレット、ハイ&ローボックス、吸盤、ボーナスゲームボード。
【ルーレットとボーナスゲームボード】
 これだけのこまごまとしたものを、路上の、アスファルトの上に並べるのである。当然、風が吹けばドル札が吹き飛ぶ。目の前を、何度も自動車が通り抜ける。30枚もあるキンキンマークは散乱するわ、小さすぎるトランプはめくりづらい、必死に風に飛ばされぬように全体を手で覆いながら、部長、重役、社長と、昇格に泣いて喜ぶ我らが小学生である。
 このゲームのハイライトは、やはりハイ&ローボックスを使って、「ハイか?ローか?」を宣言する瞬間であろう。買い物のマスに止まった際は、あらかじめルーレットを回して、定められた金額を支払う。ボックスから覗く商品は、その金額を遙かに上回る高額商品である場合が多い。出世を狙うか、高額商品を貯め込んでお金持ちになるか、それがこのゲームの面白いところだ。
 さて、一体どんな商品でウキウキワクワクしていたのだろうと、実際にボックスに買い物カードを差し入れて窓を開けてみた。
「ハイか?ローか?」
 例えば、グアム5泊6日15万4千円に対してチューインガム50円。あるいは24万9千円もするビデオデッキに対して500円のスケッチブック。
【開けて嬉しい豪華賞品?】
 確かに高価は高価であるが、なんとなく庶民的すぎて華のある商品ではない気がする。そのほか乾燥機付き洗濯機だとかブランデーだとか、喉から手が出るほど欲しい物かどうか。そもそもテレビ番組の“賞品”なのだから、規定以上の豪華賞品は無理なわけだが、やはり時代が変わると、商品に対する見方や価値も変わってきてしまう。ボードゲームであればもっと夢のある商品であっても良かったのでは、と思ったりした。
 路上での“ハイ&ロー”遊びは結局、それ一回ぽっきりとなり、友人はその後二度と盤を持ってくることはなかった。しかし私は数年後に再びこのゲームがやりたくなって、自ら買ったような記憶がある。
 不運カードを引くと、持ち金半額だの、品物没収だの、退職しろだのと手厳しい人生の試練が待ち受けているのだが、自分が止まったマスにキンキンマークを置いていく一手間は、まるで飼い犬が電柱にオシッコをひっかけてマーキングするのと同様に、愛らしい。このキンキンマークがまったく実物のキンキンに似ていないのが「愛らしくなく、玉に瑕」である。唐突に、少しばかり下ネタをかすめてしまったようだ。

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