【日本盤LP『Rhymes & Reasons』】 |
当ブログ4月7日付「キャロル・キングにおける70年代サウンド」の続きである。リマスターされたキャロル・キングのアルバムCD『Rhymes & Reasons』のサウンドを聴いて少し違和感があったのでLPを買い求めた――という話。
私が初めてキャロル・キングの曲をはっきり意識したのは、高校生の頃で、それは阿川泰子さんが歌う「Will You Love Me Tomorrow?」だった。
かなり後になって本人の「Will You Love Me Tomorrow?」を聴いた時、それがまさにA&Mレーベルらしい、どことなく田舎風の、土臭い曲であることを知って溜飲を下げた。
都会的に洗練されたサウンドの、キャロル・キングのカヴァーは多くあるけれど、女性ヴォーカリストはキャロル・キングの土臭さを嫌う。そういうアレンジを避ける。だがあのアタックの強いガチャガチャとしたピアノのフレーズと、少し歪みがちなパワーのあるヴォーカルこそが、女性の(母性の)象徴なのであって、私はむしろそれが逞しく格好いいと思う。
『Rhymes & Reasons』のレコードを聴いた。やはりCD盤のサウンドとは違った。かといって、どちらが良い悪いという分別が付かなくなったことも踏まえておく。
私が聴いたLPでは、キャロル・キングのヴォーカルとバッキングのサウンドが濃密に絡み合う低域から中低域が気持ち良く、まるで糊状のように密着して低い成分が整っていた。しかし、残念ながらリマスターのCDサウンドには、そのあたりの周波数成分の旨みはなく、すっきりとしてしまっていて、ヴォーカルももっとクリアである。
これはデジタル・サウンドだからということではなくて、やろうと思えば同じように低域の濃密さを引き出すことは可能だったはずなのだが、明らかに原盤のサウンドを敢えて外した結果だと思わざるを得ない。それは先に述べた、“都会的”に洗練されたサウンドにしたい、というある種の思惑があったからなのかも知れない。
そしてこのことが、“改悪”だとはっきり言えないのも、実は1972年に『Rhymes & Reasons』を作りだしたキャロル・キングのキャリアの苦悩から受け取れる部分でもあり、非常に悩ましい。当時のレコード盤ではその特性上再現しにくい、もっと繊細でクリアなサウンドを望んでいたのかも知れないのだ。
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ただ一つ、リマスターCD盤のライナーノーツで、それを書いた能地祐子さんの文章の中に、私なりの発見があった。
それは12曲目「Been To Canaan」(邦題「なつかしきカナン」)の解説なのだが、キャロル・キングはこのアルバムのレコーディングに入る前、コネチカット州の田園地帯の農場を買ったのだという。そこがカナン。コネチカットと言えば、カーペンターズ兄妹の生まれ故郷でもある。それはともかく、キャロルはその農場でひっそりと時間を過ごしたらしい。精神的に求めていたのは、やはりそういう場所であった。
おそらくそこは、山々に囲まれた自然の厳しい、それでいて自然の恵みが豊富な、言わば長野県の山間部のようなところであろうか。
能地さんの解説でカナンは、「乳と蜜の流れる場所」という聖書の中の約束の地と同じ、ということが書かれていて美しいと思った。
「Been To Canaan」は決してひっそりとした曲ではないが、コンガとボンゴの奏でるリズムにキャロルのガチャガチャピアノが絡まって、それがやはり土臭く、心安まる。そしてその田園地帯を想像させながら、誰しも持ち合わせている女の優しさをも感じさせてくれる。これこそ、“乳と蜜”である。
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