かまちの青春とBEATLES

【山田かまち『17歳のポケット』(集英社)】
 昨年の11月、マッカートニーの「OUT THERE JAPAN TOUR」東京ドーム公演で、一際印象的だったのが、「Eight Days A Week」の演奏。このBEATLES全盛(1964年)の曲を、まさしく本人の歌声で聴くことができたというのは、幸福を通り越して奇跡という他はない。そのことがずっと心に残っていたのだが、ここで私は、もう一人の人物を思い起こすに至る。
 私がその文庫本を書店で買い求めたのは、おそらく1997年頃だったと思う。私のその頃の精神的な不安定さと、音楽制作での行き詰まりと、あるいはもっと何か、焦りのようなものを感じていた時の、ある種絶望的な状況の中で、その一冊に出合ったことになる。
 山田かまちの詩集とも画集とも言える『17歳のポケット』(集英社)。1960年、群馬県の高崎で生まれた山田かまちは、幼少期から絵画や文芸に熱心で、中学時代では特に美術に没頭し、多くの絵画を描いている。15歳の頃よりロック・ミュージックに傾倒し、17歳になってエレキギターを購入し、練習を始めたのだが、そのエレキギターの練習中に“感電死”した。夭逝のアーティストとして知れ渡り、高崎市には「高崎市山田かまち美術館」(旧「山田かまち水彩デッサン美術館」)がある。
 私はその本の中で彼の作品とも呼べる絵画や詩に出合い、儚い命とひきかえに生涯を全うした、生きる力の素晴らしさを感じた。『17歳のポケット』は、私にとって忘れがたい書物となり、山田かまちという人の志と未来への希望は、果てしなく胸の内に響く礎となった。そうしてこの本に最初に出合ってから、16年の歳月が流れた。
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【山田かまちが使用していた家具調ステレオ】
 『17歳のポケット』には、いくつかのプライヴェートな写真が掲載されている。彼が愛用したという「ステレオ」の写真もその一つだ。それは、今となっては懐かしい木製家具調の、セパレート型ステレオ(4chスピーカー)で、もしかすると70年代に発売されたVICTORの「DF-11」ではないかと思われる。当時のステレオは、レコードの出力とFMラジオ、AMラジオの出力が主であるが、スピーカーの上に据えられたブックエンドには、BEATLESのスコアらしき本が一冊、もう片方には、同じBEATLESの国内盤LPが立てられている。
 一番手前にあるLPは、『BEATLES FOR SALE』である。国内盤LPのジャケットには、“Odeon”とアルバム・タイトルの赤字のロゴが入っているが、UK盤はそれがない。“PARLOPHONE”と“EMI”のロゴのすぐ隣にかなり小さめな、アルバム・タイトルが記されているだけだ。したがってこのLPが国内盤であるとすぐに分かる。
 『17歳のポケット』の最初のページには、彼が愛用したエレキギターと「Two Of Us」のかまち直筆と思われるスコアが掲載されており、彼がBEATLES好きであったことが窺える。
 こうして私は、ポールが歌う「Eight Days A Week」で、『BEATLES FOR SALE』が写り込んだ、かまち愛用のセパレート型ステレオの写真を思い出し、山田かまちの絵画や詩を思い起こした。彼を知る多くの人の想念は、『17歳のポケット』の巻末にある辻仁成氏の寄稿文ですべて事足りてしまう。辻氏がすべて代弁してしまっているからだ。
 ただ私は、さらに思うことがある。山田かまちの、17歳の抽象的な絵画での、プルシアンブルーを基調とする色彩と、ラフなヌードデッサンを見ているうちに、無性に切なくなってくるのである。凜と張り詰めた青春只中の恋が、やがて傷だらけの愛に変わることを知らずに、彼はこの世から去っていったのだから。
 そう2013年、あのポール・マッカートニーが日本にやってきて、「Eight Days A Week」を本当に歌ってくれたのだよ、ということを、私はこの宇宙のどこかに佇んでいるであろう山田かまちに、そっと告げておきたいのである。

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