【『洋酒天国』第41号】 |
いきなりでなんだが、まずは『洋酒天国』の「三行案内」。
《瑞典製スポーツ車サーブ92急譲五人乗銀緑新、機械快調車検35年2月12万電話静岡②XXXX木崎》
いつもながらこの「三行案内」の切り詰め言葉に感心する。“瑞典製”すなわちスウェーデン製のサーブ92(Saab 92)のことで、自動車に詳しくない私はトヨタ博物館のサイトでこの車を発見した。流線型のなんとももっこりとして柔らかい感じの自動車である。“急譲五人乗銀緑新”と切り詰めて、その愛車を譲ろうとするほんわかとした木崎さんなる人物を想像する。あんな車を所有しているとは、性格がよほど温厚なのではないか。
壽屋PR誌『洋酒天国』(洋酒天国社)の第41号は昭和34年11月発行。たびたび当ブログで紹介している都筑道夫氏のショート・ショートがまたまた冴えていて面白い。「四十二の目」。陽気な二人の男がバーでダイスを振り、恋のさや当ての決着を果たすというストーリー。負けた男の方はさばさばとした様子で神戸へ去っていくのだが、当人の女も店をやめて去っていく。負けた男はダイスの名人で、ちょっとした計らいでこういう勝負を導いた。女は男の心を知り、身の置き場所を神戸に決めた――。
第41号の編集後記にも触れている。今月(今号)は少し渋すぎると。
私が渋いと思ったのは、都筑道夫氏のショート・ショートだけではなかった。伊藤昭夫案、小笠原豊樹詩、そして真鍋博画の「律儀な殺し屋」も、である。
【真鍋博氏の画が際立つ「律儀な殺し屋」】 |
これは面白すぎる。『洋酒天国』誌上最高傑作の作品だ。5ページという紙の空間の中に、殺し屋が自由に歩き回る。歩き回った先には女がいる。律儀な殺し屋は、この女を次々と殺していくのである。何故女は現れるのか。何故殺し屋はこの女を追うのか。
これ以上の説明は野暮なだけなのでやめるが、伊藤氏の企画力、ウェット&ドライの小笠原氏の自由詩、そしてなんと言っても真鍋氏の、まさに律儀な画。この絵のユニークさがなければ、作品「律儀な殺し屋」は成立しない。
ここではスクリーントーンを多用している真鍋博氏のイラストの数々は、私は幼少の頃から見ていたかも知れない。もし勘違いでなければ、学研『原色学習図解百科』(1968年初版)の中、未来の生活居住空間なるユニークなイラストこそが、真鍋氏のそれではなかったか。小学校時代では数知れない彼の装幀イラストを、書店で目撃した記憶がある。
「律儀な殺し屋」の、結末を迎える5ページ目のイラストこそが、もう超絶なまでに真鍋氏の想像世界が最大限に引き出されていると思われるのだが、ここでそれを見せてしまうのはあまりにも品がない。なので、興味のある方はなんとか『洋酒天国』第41号を入手して、ご自身でそれを確かめていただきたい。
コメント