バシェの音響彫刻を聴く

【バシェの音響彫刻を動画で鑑賞】
 1970年の大阪万博への憧憬は、尽きることがない。昨年私は、茨城県取手市の東京藝術大学ファクトリーラボが大阪万博の鉄鋼館におけるフランソワ・バシェ(François Baschet)製作の「音響彫刻」を修復・公開することを目的としたクラウドファンディングに出資し、その後、修復製作の資料や完成した勝原フォーンの演奏動画(出資者限定のフル・ヴァージョン)を観ることができ、その「音響彫刻」の妖しげなスティールの音色に感動した。

 尚、事の経緯をここでは省きたいので、クラウドファンディングについては当ブログ昨年5月の「大阪万博と音響彫刻のこと」、鉄鋼館のスペース・シアターに関しては昨年6月の「スペース・シアター―大阪万博・鉄鋼館の記録」、修復経過については8月の「バシェの音響彫刻修復―その経過報告」を読んでいただければ幸いである。
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 勝原フォーンの演奏動画について触れておく。内容については、昨年12月3日付の朝日新聞朝刊の記事が詳しい。「大阪万博の音響彫刻 輝き再び」という記事の見出しで、12月2日、取手市の藝大取手キャンパス内(金工工房金工機械室)で復元後初の演奏会がおこなわれた。演奏者は、バルセロナ大学美術学部研究員で講師のマルティ・ルイツ氏、それからバシェ協会会長の永田砂知子さん。演奏会場には、クラウドファンディングで支援した関係者らが参加、とある。
 私はまず、動画を観る前に、今年の3月末に藝大ファクトリーラボから送っていただいた勝原フォーンの図面データを見、「音響彫刻」の全体像を把握することに努めた。その最も特徴的な、植物の葉のような形をした金属板の材質はジュラルミンで、大きさはどれも100センチ角の板金からカットされ湾曲して接合されているので、概ね縦120センチ×横95センチほどである。湾曲した金属板の奥行きは概ね3センチから2.5センチほど。加工された表面は放射状に波打っていたりするので、よりいっそう葉脈らしく見え、まるで金属板が生きているかのような印象である。図面にはその他、この金属板を支えるための金属製のパイプなどの設計図があり、これら全体を復元したとなると、製作には相当苦労があったかと思われる。
【勝原フォーンの設計図をプリントアウト】
 勝原フォーンの演奏動画は、幸いなことに、この時の演奏会の30分強のフル・ヴァージョンを鑑賞することができた。基本的な演奏手法としては、琴のように張り巡らされた弦をピックで弾いて音階を奏で、一方では、横に張られた弦を竪琴に見立てたかたちで指で弾く奏法もある。それ以外では、金属板を直接叩いたり擦ったり、弦やバーのあたりをスティックで叩いてリズムにしたりといった奏法もあり、いずれにせよフォーンの金属板に振動が伝わって音が増幅されるというしくみだと思われる。

 その音色を言葉で表現するのはなかなか難しい。一聴すると、ハンガリーの民族楽器ツィンバロム(打弦楽器)に似ている。あれよりも鈍く、柔らかく、遥かに響きの余韻が長い(金工機械室の残響にも影響しているのだろうが)。ハンマーダルシマーよりは哀感を帯びているといった感じで、やはりその音色は独特のものだ。
 こうした数種の奏法で奏でられた30分弱の演奏動画には、どうやらタイトルが付けられていないようだが、私がこの演奏を聴いてイメージしたのは、どういうことか中島敦の「山月記」である。実はこの同じ演奏会のショート・ヴァージョンが一般公開されているので、ぜひともバシェの「音響彫刻」の音色を鑑賞していただきたい。

BASCHET Sound Sculpture:東京藝術大学バシェ音響彫刻修復プロジェクト FACTORYコンサート(ショートバージョン) from LAB GEIDAI FACTORY on Vimeo.

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