ガルガンチュアの箱のこと

取り寄せた『GARGANTUA E PANTAGRUELE』
 ごくたまに、その物体や景色の「色味」に魅了されて、それを取り込むためだけにデジタルカメラを向け写真画像を撮ることがある。

 例えば、とあるどこかで、ゴツゴツとした重々しい石綿の建物の壁面に出くわしたりして、そのなんとも言えない濁った白色に目を奪われ、この色を取り込みたいとシャッターを切ったりなど――。

 ウェブサイトで音楽作品用のジャケットやバナーを作る際、その作品のイメージカラーや構図的バランスはとても重要で、毎度四苦八苦する。いま私がPhotoshopで使用している色味のプリセットは、Pantone Colorである。長年、豊富なプリセットをいろいろ試行錯誤してみて、ようやくPantone Colorに行き着いた。私はこれが好きである。尤もこれはプリント用で、ウェブ用にリダクションする際には多少最適化され色味が微妙に変わってしまう。とは言え、視覚的に色味をできるだけ正確に再現するため、定期的なモニター・キャリブレーションは欠かすことのできないメンテナンス作業となっている。

 色に関してはPantone Colorのプリセットですべて用を足せるのだが、やはり写真素材から簡易的に色を取り込むことは少なくない。色味を簡単に取り込むことができるのは、Photoshopの基本的な機能でもある。ただやはり、実物の色彩に魅了されてわざわざ写真を撮ったりするのは、私の中でも以前と比較して例外的な儀式となってきた。

 昨年のこと、岩波書店PR誌『図書』2012年11月号の表紙に、私は頗る魅了された。文庫本の箱の写真である。調べてみれば貴重な、リッツォーリ社が出版した『GARGANTUA E PANTAGRUELE』であった。

 私は直ぐさまこの現物、すなわち『GARGANTUA E PANTAGRUELE』を取り寄せた。
 この美しさを何と形容したら良いのか。ともかくサミヴェルのイラストが際立っており、それに加えて装幀の見事なこと。そして何より、視覚的に飛び込んできたのが、この装幀の下半分を占めるオレンジ色。巨人ガルガンチュアの顔の色味から反復された特徴的なオレンジ色であり、この融和がとても美しい。

 『図書』の中でフランソワ・ラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』を紹介したのは、この本の日本語対訳版の訳者である宮下志朗氏。このリッツォーリ社BUR文庫の箱が気に入ったらしい。装幀のことよりも箱入りの文庫がいい、という内容の文章を寄せている。ちなみに宮下訳の文庫本は岩波ではなく、ちくま文庫である。

 『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の話は置いておくとして、あの本を取り寄せた私は早速、デジタルカメラでその全体を収めた。そしてその画像から、装幀のオレンジ色の比較的明るい部分をスポイトツールで抽出してみた。

 それが、「#bf7444」である。
 C:20% M:65% Y:78% K:0%で、Pantone Colorでこの色味に最も近いと思われるのが1645CP(#d57c45)だ。こちらは、C:0% M:63% Y:75% K:0%であり、近似値の範囲ではないかと思う。
 画像に収めた際の、光源などの様々な要素が入り込んで、実物の箱の色味とは誤差が生じているのは承知した上で、何かそのサミヴェル画の大事な魂を部分的に抜き取ったような興奮を味わうことができ、またPantone Color自体も、自分の色味の好みとよく合致しているなということが判明して、面白い体験であった。

 それにしても『ガルガンチュアとパンタグリュエル』を読むには到らない。個人的になかなか手が出せない。長篇過ぎるのである。

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