Yellows MENのCD-ROMのこと〈一〉

【五味彬の写真集“Yellows MEN”のCD-ROM】
 先月書いた「五味彬の『Yellows MEN Tokyo 1995』」の続き。90年代に日本で“ヘアヌード”写真集が解禁され、以後、出版業界から“ヘアヌード”写真集がわんさかと発売され、一大ブームとなったが、その火付け役となった画期的な写真集――それが、写真家・五味彬氏の“YELLOWS”シリーズであった。当時は業界を席巻し、“イエローズ”という言葉は広く口コミで伝わった。
 1995年に風雅書房から出版された『Yellows MEN Tokyo 1995』は、シリーズのうち唯一無二となる“男性ヘアヌード”写真集であり、計26人の全裸を標本化した秀逸作である。先月の稿に一つ書き忘れていたことがあったので、今回はそれを書き足すことにした。すなわちそれは、この“Yellows MEN”の、Mac用CD-ROMについてである。
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 そんなものがあったのか――と、私もしばらく忘れかけていた。そもそも五味氏の“YELLOWS”シリーズの先発となる1993年の『Yellows 2.0 Tokyo 1993』(当ブログ「YELLOWSという裸体」参照)は、CD-ROM写真集としてプロダクトされていたのだ。ともかく私はそれを思い出し、“Yellows MEN”のCD-ROMを市場で探してみることにした。
 ところがごく最近、本当にまったくと言っていいほどの奇跡が起こり、私はそれを楽に入手することができたのだった。透明のスリムケースに収まった8インチ・ディスク――。1994年、DIGITALOGUEから販売されたMac用CD-ROM“Yellows MEN”。定価は6,800円であるが、むろんのこと、私は今回その値段で入手したわけではない。なかなか市場には出回っていない、レアな、お宝アイテムではないかと、しばし興奮した。
 意味深なのは、CD-ROMのタイトルであった。タイトルの中の西暦が、書籍版とは違っているので不思議に思った。風雅書房の書籍の方のタイトルは、『Yellows MEN Tokyo 1995 AKIRA GOMI Photographs』。それに対し、CD-ROMは、『Yellows MEN Tokyo 1994 AKIRA GOMI Photographs』となっている。写真集の中身はまったく同じであるはずなのに何故、書籍の方は“1995”で、CD-ROMは“1994”なのだろうか。
 結論としてそれは、「撮影年」の表記ではなく、「出版年」の表記だから――ということに尽きるのではないかと思われるが、一応、撮影にまつわるデータを振り返っておく。撮影データは前回の際に記したが、書籍版では、写真集“Yellows MEN”の撮影年月日は、1994年3月23日~25日の3日間となっており、CD-ROMの方の表記もまったく同じ。ついでに補足すれば、撮影場所はバナナプランテーション、カメラはMamiya 645。すべてデータは同じであり、同じ撮影プロダクトを指している、ということになる。
 やはり、書籍の「出版年」は1995年だから――と冷静に沈着しようとしたその瞬間、ふと気がついた。もしかすると、このタイトルの中の西暦違いのからくりというのは、それぞれ個別の出版権の問題を回避するためだったのではないか。中身の原版は同じ。しかし、同じ著作から派生したアイテム群とは扱えない権利上の事由――。CD-ROMの販売元は、DIGITALOGUE。メディア戦略として、もともとこちらに優先的な権利があって、書籍版の方は、あくまで付随的な出版だったのではないだろうか。
 そう考えても、なかなか腑に落ちない。何か落着せず、もやもやとしたものが残る。ともあれ私は、CD-ROMの中身を実際に見てみることにしたのだった。
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 おいおい――と奇跡を起こしてくれた天に向かって、私は文句を言いそうになった。何故なら、この古めかしいCD-ROM、これを再生するのに、大いに手間がかかったからである。
 何より、まず最新のWindows OSでは再生できなかった(そんなことは最初から分かっていたが、やらずにはいられなかった)。最新のMac OSでも無理のようである。ならば、この古めかしいCD-ROMがまっとうに再生できる、古いスペックのMacを用意しなければならなくなった。CD-ROMに記載されていた「必要システム」には、
《Macintosh LCII以上(68030以上のCPU)、漢字トーク7以上、空きメモリ5MB以上、QuickTime Ver.2.0以上、13インチ以上のカラーモニタ、24bitのビデオボードまたは16bitカラー表示可能なシステム》
 とある。この条件を満たす古いスペックのMacを、私は調達することにした。なるべく無駄な支出は抑えたいところだったが――。
【CD-ROMを再生するために入手したMacintosh PowerBook G3】
 そうしてあれやこれやでネット市場で見つけたのが、Macintosh PowerBook G3 Series M5343である。スペックは400MHz/1MB Cache/64MB/6GB HD/8MB Video/DVD。Mac OSのヴァージョンは8.6。確かに古い。そのMac本体の見た目は非常に傷が多くて、全体的に黒ずんでいて汚れていた。モダンなMacらしさは微塵も感じられない。しかも、拡張スロット(DVD-ROM)の挿入口が壊れかけていた。したがって、破格値であった。破格値であったから、私は買った。なんとかこれで、あのCD-ROMが再生できれば――と天に祈るばかりであった。
 結果、祈りが通じた――のかどうかはさておき、CD-ROMはなんとか再生できた。ただし、スロットの挿入口が壊れていてぴたりと完全に締まらず、そのままの状態では再生してくれなかった。そこで私は、昭和的解決法としての大秘策、“粘着テープ”の力を借りることにした。粘着テープを挿入口に貼りつけ、完全に閉じた状態となるよう固定し、再生に支障をきたさないようにした。すると、問題なくメディアを読み込んでくれて、この問題は解決したのだった。
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【モニタ画面に表れた“YELLOWS MEN”のロゴ】
 CD-ROMは、マクロメディアの「MacroMedia Director 4.0」仕様である。PowerBook G3には、当時のQuickTime2.0がインストールされていて、“YELLOWS MEN 1994 TOKYO”のロゴがモニタ画面に現れた。
 コンテンツは、いわゆるフォト・スライドショーになっていた。ちょっとしたビデオ(全写真をつなげて編集した簡単な作品)や個別のカット写真や個人のプロフィールを閲覧することができる。また、年齢や血液型、身長、体重、スリーサイズなどといったカテゴリーから、見たい個人の写真を検索することもできる。
 そうしてこのCD-ROMを再生してみて驚いたのは、これらの写真が、なんとカラーだったことである。写真集“YELLOWS MEN”はモノクローム作品ではなかったのか――。思わず絶句したのだけれど、CD-ROM版では厳然たる事実として、カラーで顔とヌードを閲覧することができるのだ。
 となると、先述の謎が解けたような気がした。同じ作品であって、同じ作品ではないのである――。もともと撮影ではカラーフィルムを使い、書籍版ではモノクローム処理を施していた、ということになる。
 今回使用したMacのモニタ・ディスプレイのスペックでは、というか当時のMacでは、解像度の点で書籍版の写真よりかなり劣る。いわゆる写真画質の呈を成しておらず、あくまでインデックス画質程度に過ぎない。また、カット写真のズームイン/アウトもできない仕様となっている。後半に続く。

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