『洋酒天国』と観賞用男性

【『洋酒天国』第42号。フランキー堺さん】
 『洋酒天国』(洋酒天国社)第42号は昭和34年12月発行。
 これまで当ブログで紹介してきた“ヨーテン”コレクションも、そろそろちびりちびりとなってきた感がある。つまり残すところ、未紹介冊数も僅かということ。いやいや気分的には、全号制覇といきたい。最終号の第61号は昭和39年2月発行となっており、これまでたくさん“ヨーテン”を紹介してきたつもりだが、まだまだ入手し切れていない号がごろごろとある。それをこれからちびりちびり入手するならば、果たして全号制覇はいつになるのか――。無論、きわめて入手困難な“ヨーテン”だけに、気の遠くなるような話である。
 まず恒例となっている第42号の巨大ピンナップは、“MISS BARTENDER”若尾ルミさん。バーのカウンター・テーブルに腰掛け、ワイシャツを開放的に着こなしつつたっぷりとした胸を突き出した小麦色のヌード。背景の白札ウイスキーが艶やかなアクセントとなっており、大人のロマンチシズムを感じさせる好写真。
 こうしたピンナップについて、私は当ブログ10月6日付「『洋酒天国』とパリの饒舌」でこんな雑感を書いた。
〈この手のピンナップは当時酒に酔った殿方の視線目的で企画されていることは言うまでもない。が、思うに、女性の裸体の美しさは女性が見ても美しいに違いなく、『洋酒天国』がもしそうした酒を嗜む女性側の視線を含めてのPR誌であったならば、かなり違った企画(センス)で埋め尽くされたであろう。その後の酒の文化は大きく変わっていたかも知れない〉。
【竹腰美代子さん「私の選んだサケ」】
 実は第42号は、見事にそれを誌面化した内容となっていて、女性による女性のための“ヨーテン”なのだ。きわめて珍しい。
 編集後記によれば、編集部のスタッフを一新し、若く美貌の女性が参加、とある。おそらくそのあたりの兼ね合いで、一つやってみようと試みたのかも知れない。この時代の雰囲気あって、やや内容がどれも夫、旦那譚的臭みが生じているのが玉に瑕だが、画期的な企画であったのことには変わりない。
 そうした誌面で酒飲みの“父”を題材にしたのが、NHK美容体操・竹腰美代子さんの「私の選んだサケ」である。子供の頃から父に酌をして酒話を聞き、若い頃には既に酒が善き友になっていた、というような酒巧癖を綴っている。和やかな竹腰さんの表情ととグラスが印象的だ。
 サントリー(壽屋)の白札とオールドの写真が小さく添えられているが、ちなみに私は白札を嗜むがオールドはやらない。そのほか角瓶とトリス、シングルモルトの山崎と白州を代わる代わる呑む。最近、シングルグレーンの知多というのが出たのでいずれこれも呑んでみたいと思っている。蛇足。
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 今号には“コモリのおばちゃま”こと小森和子さんによる「映画にみる 酒を楽しむシーンさまざま」というのがあって、名画に登場する酒のシーンを紹介していたりして、機会があれば観てみたいと思う名画がいくつかあった。『モンパルナスの灯』しかり、ドリス・デイ主演の『夜を楽しく』しかり。
 第42号の表紙の、フランキー堺さんも名俳優であった。私は彼の登場する東宝の“社長シリーズ”や“駅前シリーズ”が好きで、同じ作品を繰り返し観ることがある。しかしそれ以前の彼の出世作と言える映画と言えば、川島雄三監督の『幕末太陽傳』(1957年日活)を挙げる以外にない。
 この表紙の、フランキー堺さんの服装が異色である。
【ピンナップのモデルは若尾ルミさん】
 誌面の中でデザイナーの中林洋子さんが「男性服装論」というのを書いている。これはフェミニストという志向に対抗して、自分を“マスキュリニスト”(masculineを転じて?)と称し、女権拡張論者ならぬ男権拡張論者を決め込んだ服装話を展開させるエッセイ。ここでは“鑑賞用男性”という言葉が出てくる。文字通り、そういう男性のための服装をデザインしようという主旨である。
 その一つの例が、どうやらあのフランキー堺さんの服装であった。
 ちなみに中林さんはホームバーを所有する殿方のために、こんな服装を考案した。ホームバーを所有する殿方は芝居気たっぷりであろうし、来る客は友人か子分に決まっているだろうから、どんな狂気じみていても構わない。サテンエラスティックのタイツ、ダンダラ縞のチョッキ、シフォンベルベットの上着。ヘンリー八世風の荘厳さを狙うべき、と。
 いったい中林洋子さんとはどんなデザイナー? と思ってしまうのだが、昭和35年つまり第42号の翌年に、野村芳太郎監督の映画『鑑賞用男性』という風変わりなタイトルの映画が、有馬稲子さん主演で松竹から封切られている。まさにこれが原案者中林さんの提唱する“鑑賞用男性”の映画。これまた是非観てみたい映画なのだが、あんな奇抜な服装がわんさか出てきそうな、面白そうな映画である。
 こうして『洋酒天国』には話題の人々が拮抗して登場する。毎号目が離せない。

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